pubDate: 2024-03-24
author: sakakibara
有限要素法の数学的基盤
有限要素
def :
有限要素(Finite element) とは以下を充たす組κ=(K,P,Σ)のことである。
KPΣ=Rd s.t.(d=1で線分の補間、d=2で三角形や四角形の補間)={K上の多項式空間であり、dim(P)=NP}={Li∣線形写像 Li:P→R,i=1,2,…,NP}
ここで、集合Σの要素Liは自由度(degree of freedom: DOFとも)と呼ばれる。
自由度は有限要素の基底関数として使われる。
H1, H(curl), H(div)
Ω⊂Rdを有界なリプシッツ連続領域とし、dを空間の次元とする。
L2を自乗可積分関数(2乗ルベーグ空間)の空間, [L2]dをd次元L2空間とする。
関数のスカラーヒルベルト空間 H1 は以下で定義される。
H1={u∈L2(Ω)∣∇u∈L2(Ω)}
H1は基礎的な関数空間であり、ソボレフ空間としてよく使われる。
ここで、H1の定義で使用されている偏微分は超関数(distributions)の文脈に対しても意味を持つ。
また、ベクトル値関数空間H(curl), H(div)は以下で定義される。
H(curl)H(div)={u∈[L2(Ω)]d∣∇×u∈[L2(Ω)]d}={u∈[L2(Ω)]d∣∇⋅u∈L2(Ω)}
ここで、H(curl)とH(div)は偏導関数の連続性のみが自乗可積分によって保証されているという点でL2空間とH1の中間に位置する。
簡単に言ってしまえば、H1は勾配がL2に含まれるようなL2の元であり、
H(curl)は回転がd次元L2ベクトル空間に含まれるようなd次元L2上ベクトル空間の元であり、
H(div)は発散がd次元L2上ベクトル空間に含まれるようなd次元L2ベクトル空間の元である。
unisolvency
有限要素κ=(K,P,Σ)がunisolvency(一意解決)とはΣの自由度とPの基底関数の関係を表す概念である。
以下を充たすとき、有限要素κ=(K,P,Σ)はunisolvency(一意解決) であるという。
∀g∈P,L1(g)=L2(g)=…=LNP(g)=0⟹g=0
言い換えると、Li(i=1,2,…,NP)を要素にもつベクトル
L(g)=(L1(g),L2(g),…,LNP(g))T∈RNP
が多項式空間Pからの単射であることを意味する。
δ-propertyについて
有限要素κ=(K,P,Σ)について、
多項式空間の部分集合B={θ1,θ2,…,θNP}⊂Pがδ-propertyを持つとは以下を充たすことをいう。
Li(θj)=δij, ∀i,j=1,2,…,NP
ただし、δijはクロネッカーのデルタである。
unisolvencyの特徴
有限要素がunisolvencyであることと、その有限要素がもつ多項式空間Pがδ-propertyを持つことについては以下の重要な命題が成り立つ。
有限要素κ=(K,P,Σ)について、
有限要素κがunisolvencyである⟺δ-propertyを持つ基底B={θ1,θ2,…,θNP}∈Pが唯一つ存在する
proof :
⟹の証明:
有限要素κがunisolvencyであるとする。また、多項式空間の任意の基底について{g1,g2,…,gNP}⊂Pをとる。
多項式空間の任意の元θj(j=1,2,…,NP)は係数akj∈Rを用いて以下のように線形和を用いて表現できる。
θj=k=1∑NPakjgk
ここで、δ−propertyが成り立つときはどのような状況であるかを考える。
δ−propertyがなりたつときは以下を充たす係数akjが一意に定まるときである。
Li(θj)=k=1∑NPakjLi(gk)=δij
(Liの線形性を用いている。)
この式を行列形式で表現すると以下のようになる。
LA=I
そこで、証明すべき命題を上の行列方程式の係数行列Aが一意に定まることを示すことに帰着させる。
(不定・不能ではないことを示す)
Lの各列が線形従属であると仮定する。
するとLiにて適当な非ゼロな係数αkを用いて
k=1∑NPαkLi(gk)=k=1∑NPLi(αkgk)=0
と表現することができる。
(ベクトルv1,v2,…が線形独立であるということは、∑civi=0⟹ci=0 であることを意味する。よって線形独立ではないということは∑civi=0∧ci=0)
しかし、有限要素κがunisolvencyであるという仮定のため、任意のαkgkに対して
k=1∑NPLi(αkgk)=0⟹αkgk=0
であるはず。
これは、Liが線形従属であることと矛盾する。
よって、Lの各列は線形独立であり、それに伴い、Lは可逆である。
よって、係数行列Aは一意に定まる。
⟸の証明:
δ-propertyを持つ基底B={θ1,θ2,…,θNP}∈Pが唯一つ存在するとする。
多項式空間Pの任意の元g∈Pは適当な係数γiを用いて以下のように表現できる。
g=i=1∑NPγiθi
よって、
Li(g)=j=1∑NPγjLi(θj)=γi
(θiがδ-propertyであることを用いた。)
よって
Li(g)=0⟹γi=0⟹g=0
以上より、有限要素κはunisolvencyである。
Q.E.D.
さて、以上の証明は有限要素がunisolvencyであることを確認するための方法を示してくれている。
つまり、多項式空間の適当な基底を集めてきて、行列Lを構成し、その行列が可逆であることを確認すれば良い。また、δ−propertyをもつ多項式を構成するための、実際の係数行列Aの値も行列Lの逆行列を計算することで求めることができる。
example (unisolvencyではない)
K=[−1,1]2の正方形領域を考える。
ここで、多項式空間Pは以下の元で張られる空間であるとする。
P=span{1,x1,x2,x1x2}
(ここで、x1,x2はそれぞれいわゆるx,y座標を表す。
また、多項式空間の元g∈Pは適当な係数の線形和となる。
例えば、g(x1,x2)=1+2x1+3x2+4x1x2のように表現できる。
また、(x1,x2)=(−1,−1)のとき、g(−1,−1)=(1,−1,−1,1)⋅(1,2,3,4)のように表現できることにも留意すべきである。前がLとなり、後ろが係数となる。
)
また、自由度Σは[−1,0],[1,0],[0,1],[0,−1]で値を持つとする。
L1(g)L2(g)L3(g)L4(g)=g(−1,0)=g(1,0)=g(0,1)=g(0,−1)
このとき、有限要素κ=(K,P,Σ)はunisolvencyであるかどうかを考える。
この場合、行列Lは以下のようになる。
L=1111−1100001−10000
これは可逆ではない。
よって、有限要素κはunisolvencyではないし、δ-propertyを持つ基底も存在しない。
example (unisolvencyである)
区間Ka=(−1,1)、Ka上のp次多項式空間Pa=Pp(Ka)について考える。
KaをNp=p+1個の(幾何学的な)点(−1=X1<X2<⋯<XNP=1)で被膜するすることを考える。
これらの点は慎重に選ばれなければならない。
というのも、それらの点の分布が基底関数を決め、結果的に離散問題の条件をを決めるからである。
自由度を以下のように定義する。
ΣaLi(g)={L1,L2,…,LNP}, Li:Pa→R=g(Xi), ∀g∈Pa, i=1,2,…,NP
明らかにLiは線形写像である。
(多項式g+fについてLi(g+f)=g(Xi)+f(Xi)=Li(g)+Li(f)と定義できるから)
∀g∈Paは以下を充たす。
(例えば3次方手式=0となる点は3つしか無い。一般にp次多項式の根はp個である。p+1個の点があるとき、p次多項式は0となる。)
g(X1)=g(X2)=…=g(XNP)=0⟹g=0
よって、有限要素κa=(Ka,Pa,Σa)はunisolvencyである。
δ−propertyを充たす空間Paの基底を構成するのは簡単である。
1Dの場合、ラグランジュの補間多項式が利用できるため、線形方程式を解く必要さえない。
高次元の場合の頂点要素も同じ方法で構成できる。
例えば、dim(T)=2の正三角形TとT上のp次多項式空間PT=Pp(T)について考える。
TをNP=2(p+1)(p+2)個Gauss-Lobatto点X1,X2,…,XNpでカバーすることを考える。
δ−propertyを充たす基底関数はNp×Npの行列Lの逆行列を計算することで求められる。(証明した通り)
頂点の値に基づいた有限要素はh−adaptiveな要素の構築にも利用できることで有名である。
example (unisolventな階層要素)
他の有限要素の設計に対する重要なアプローチとして階層形状関数の適用がある。
領域KとNp次元の最大次数pの多項式空間Pとし、
多項式空間Pの階層基底Bp={θ1,θ1,…,θNp}について考える。
階層基底とは任意のpに対して
Bp⊂Bp+1
を充たす基底のことである。
あらゆる多項式g∈Pは以下の線形和で表現できる。
g=i=1∑Npβiθi=i=1∑NpLi(g)θi
ここで、βiは実数値係数を表し、Li(g)=βiである。
明らかに、Σ={L1,L2,…,LNp}の選択によって有限要素κ=(K,P,Σ)はunisolvencyとなり、Bはδ−propertyを持つ。
階層要素では頂点要素よりも簡単に非均一な次数の多項式近似を扱うことができる。
つまり、p-やhp-adaptiveでの適用を可能にする。
有限要素メッシュ
対象の問題を研究するためにリプシッツ連続境界を持つ領域Ωを考える。これはその境界が区分多項式であるような計算領域Ωhで近似される。
def : 有限要素
区分多項式をもつ領域Ωh⊂Rd上における有限要素Th,p={K1,K2,…,KM}はΩhの幾何学的分割である。
有限要素はΩhを有限個の非交差な開集合ポリゴンセルKiに分割する。
Ωh=i=1⋃MKiˉ
それらのセルKi, 1≥i≥Mは次数1≥p(Ki)=piの多項式が備え付けられている。
def : ハイブリッドメッシュ
様々なセルのタイプが結合されているとき、メッシュはハイブリッドメッシュと呼ばれる。
def : 正則メッシュ
任意の2つの要素Ki,Kj, i=jに対して、次の一つの条件のどれかを充たすならば、そのメッシュを正則メッシュと呼ぶ。
- Kiˉ∪Kjˉ=∅
- Kiˉ∪Kjˉは単一共通の頂点を持つ。
- Kiˉ∪Kjˉは単一共通の辺を持つ。
- Kiˉ∪Kjˉは単一共通の面を持つ。
有限要素補間と適合性
参照領域と参照写像
有限要素の離散化